購入前に知っておきたい: スリングショットと銃刀法の基礎知識
鳥獣被害、的撃ち、狩猟と様々な用途に使用されるスリングショットですが、スリングショットとはおもちゃではなく実質的に武器として分類されます。武器としてのスリングショットは弾を発射する機構を有しているため多くの人は銃刀法に触れるのでは?と疑問に思うことは当然でしょう。日本の銃刀法はスリングショットの購入、保有、そして使用において、どのように適用されるのでしょうか?この記事では、スリングショット愛好家が直面する法的な問題を回避するために必要な基礎知識を解説します。
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銃刀法におけるスリングショットとスリングライフル
銃刀法とは刀や銃といった武器を規制する法律で、この法律のおかげで日本に銃が普及せず安全に暮らせているといっても過言ではないでしょう。昨今アメリカでの銃撃事件のニュースを見るたびに日本社会に銃が浸透していなくてよかったと皆が感じている思います。それでは日本における銃刀法とはそのような物なのでしょうか?スリングショット及びスリングライフルは銃刀法に規制されるものなのでしょうか?まずは、銃刀法上のスリングショットの定義を見ていきましょう。
スリングショットに関しての基礎知識はスリングショットのページをご覧ください。
銃刀法の基本的理解
銃刀法は正式には銃砲刀剣類所持等取締法と言います。日本で初めてこの法律が制定されたのが1958年でこの法律の下となったのがGHQ統制下の日本において発布された銃砲等所持禁止令です。当時GHQの占領下にあった日本に対して軍の解体と武装解除を目的としたのがこの法令です。その後時代は移り変わり、暴力団が抗争や凶悪事件を引き起こしていた時代の1958年に所持に加え輸入も禁じた法律がこの記事においての主題である銃刀法になります。それでは銃刀法上で禁止されている銃や刀の定義とはどのようなものなのでしょうか?
第二条 この法律において「銃砲」とは、拳銃、小銃、機関銃、砲、猟銃その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲及び空気銃(圧縮した気体を使用して弾丸を発射する機能を有する銃のうち、内閣府令で定めるところにより測定した弾丸の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう。以下同じ。)をいう。
2 この法律において「刀剣類」とは、刃渡り十五センチメートル以上の刀、やり及びなぎなた、刃渡り五・五センチメートル以上の剣、あいくち並びに四十五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ(刃渡り五・五センチメートル以下の飛出しナイフで、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であつて峰の先端部が丸みを帯び、かつ、峰の上における切先から直線で一センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して六十度以上の角度で交わるものを除く。)をいう。
この定義を見る限り、スリングショットも銃型のスリングライフルも銃刀法で定義されている鉄砲には該当しません。なぜならスリングショットもスリングライフルも火薬、空気を使用して弾丸を発射する機構を有しておらず、ゴム動力で球を発射する機構であるためです。スリングライフルという名前は銃を想像しますが、スリングライフルには撃鉄も砲身もついておらず、銃刀法上で定義されている「銃」とは根本的な作りが異なります。
スリングショット、スリングライフルは銃刀法上違法なのか?
前述でスリングショットが銃には該当しないため、何ら違法性は無いことがわかりましたが、銃刀法には他にも所持の規制対象となる武器が存在します。それはクロスボウです。銃刀法上ではクロスボウとは以下のように定義されています。
引いた弦を固定し、これを解放することによつて矢を発射する機構を有する弓のうち、内閣府令で定めるところにより測定した矢の運動エネルギーの値が、人の生命に危険を及ぼし得るものとして内閣府令で定める値以上となるものをいう。以下同じ。
ここでのポイントは”弦”と”弓”という言葉です。クロスボウは金属の張力(しなり)を利用し弦を通して矢を発射する物で、スリングショット、スリングライフル共に弦を使用しておらず、しなりを利用して物体を飛ばす機構でもないのでクロスボウには該当しません。よってスリングショット、スリングライフル共に銃にもクロスボウにも該当しないため銃刀法上で規制されている物ではなく、購入、所持、使用は違法ではありません。
スリングショットは違法なのか?スリングショットに関わる法的考慮事項
スリングショット購入に関して銃刀法上は何ら問題なことがわかりましたが、ほかに懸念すべき法律はあるのでしょうか?スリングショットは武器であり、日本には武器の携帯を禁止する軽犯罪法というものが存在します。さらに、各県には迷惑防止条例が存在し、これも理解しておかなければなりません。また、前述に加えてスリングショットを狩猟、害獣追い払いに使うのなら鳥獣保護法も理解しておかなければなりません。さらに、18歳以下に対して有害玩具を貸与、譲渡等、販売を禁止する青少年育成条例が各県に存在するため、子供にスリングショットを買い与える、知り合いの子供にプレゼントしようと考えている方はやめておいたほうがよいでしょう。それでは軽犯罪法から見ていきましょう。
軽犯罪法とスリングショット
軽犯罪法とは社会通念上の道徳から逸脱する行為を取り締まる法律で、スリングショットを購入するのならば必ず理解しておきたい法律です。以下が原文です。
二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
スリングショットは人の身体に重大な害を加えることができるので、これを正当な理由なく隠して携帯しているとこの法律に触れることとなります。畑に害鳥を駆除、追い払いに行く際は正当な理由を説明できるようヤッケに長靴等の畑に行く格好で、狩猟に行く際はハンターマップと鳥獣保護法11条のコピーを携帯し、スリングショットで狩猟を行っても問題ないことの証明をできるようにするようにしてください。野外で的撃ちに行く際には車にターゲットボックスと具体的にどの場所で的撃ちをする予定なのか職務質問を受けた際に説明できるようにしておくとよいでしょう。
迷惑防止条例
前述の軽犯罪法では武器にあたるものを隠して携帯することが罪に当たるので、スリングショットが見えるように携帯すればこちらの犯罪に抵触することはありません。しかし、見えるように携帯すると別の法律に触れてしまうことになります。迷惑防止条例は公衆に迷惑や不安を与えることを防止する条例で条例分の文言は違いますが各都道府県に存在するものです。その中に公衆の場において武器を携帯することを禁ずる物があり。スリングショットを公に携帯することはこの条例に触れることとなります。以下は京都府の迷惑防止条例の原文です。
2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由なく、刃物、鉄棒、木刀その他人の身体に危害を加えるのに使用されるような物を、公衆に不安を覚えさせるような仕方で携帯してはならない。
スリングショットは身体に危害を加えるのに使用できるため、公衆に不安を抱かせる方法で携帯することはこの条例違反となります。公衆とは人が集まる場所を指し、港や、公園、道路等人が通る場所を全般を指します。
迷惑防止条例の罰則
迷惑防止条例は県で定めている条例であるため、県によって罰の重さが異なります。いずれも過料か拘留刑で、過料の場合50万~100万以下の罰金、拘留の場合6か月~2年となります。罰則で見ると迷惑防止条例のほうが軽犯罪法よりもはるかに重いため、スリングショットは必ずカバン等に入れ周囲から見えないようにするようにして携帯したほうがよいでしょう。
スリングショットを合法的に携帯するには?
軽犯罪法と迷惑防止条例の2つの法律を解説しましたが、スリングショットを合法的に携帯するには一定の条件が存在することが分かりました。迷惑防止条例では公にスリングショットを携帯してはならないと明記されているため、スリングショットは隠して携帯しなければなりません。また、隠して携帯する場合も正当な理由がない場合軽犯罪法違反となるため、スリングショットを合法的に携帯するには、原則として正当な理由が有ること、人目につかない方法で隠して携帯することを必ず守る必要があります。しかしながら、スリングショットで人の家の窓を割るなど事件が起きている際は警察の取り締まりが厳しくなるので、正当な理由があるとしても携帯しないようにするほうが良いかもしれません。
スリングライフル、スリングショットと鳥獣保護法
スリングショット、スリングライフル共にヒヨドリ対策やカラス、ハトといった害鳥の駆除、害獣の代表格でもあるサル追い払いに使用されています。そういった害鳥獣の駆除、追い払いに使用する場合の法律はどうなっているのでしょうか?
スリングショットに関わらず、鳥獣に対して危害を加えることは基本的に鳥獣保護法で禁止されており、決められた条件の下でなければ野生生物を捕獲することは出来ません。鳥獣保護法の全てをここで説明することは割愛し、狩猟者登録、狩猟免許、捕獲許可等の行政からの許可がない場合についてのみ説明しますが、スリングライフル、スリングショットでの鳥獣の捕獲の合法性は鳥獣保護法の第十一条イに記載されています。以下が原文です。
第十一条 次に掲げる場合には、第九条第一項の規定にかかわらず、第二十八条第一項に規定する鳥獣保護区、第三十四条第一項に規定する休猟区(第十四条第一項の規定により指定された区域がある場合は、その区域を除く。)その他生態系の保護又は住民の安全の確保若しくは静穏の保持が特に必要な区域として環境省令で定める区域以外の区域(以下「狩猟可能区域」という。)において、狩猟期間(次項の規定により限定されている場合はその期間とし、第十四条第二項の規定により延長されている場合はその期間とする。)内に限り、環境大臣又は都道府県知事の許可を受けないで、狩猟鳥獣(第十四条第一項の規定により指定された区域においてはその区域に係る第二種特定鳥獣に限り、同条第二項の規定により延長された期間においてはその延長の期間に係る第二種特定鳥獣に限る。)の捕獲等をすることができる。
一 次条、第十四条、第十五条から第十七条まで及び次章第一節から第三節までの規定に従って狩猟をするとき。二 次条、第十四条、第十五条から第十七条まで、第三十六条及び第三十七条の規定に従って、次に掲げる狩猟鳥獣の捕獲等をするとき。イ 法定猟法以外の猟法による狩猟鳥獣の捕獲等ロ 垣、柵その他これに類するもので囲まれた住宅の敷地内において銃器を使用しないでする狩猟鳥獣の捕獲等
要約すると法定猟具(銃、網、罠)以外で狩猟鳥獣(2022年にゴイサギとバンが狩猟鳥獣から外れ46種になりました。)を捕獲する場合、猟期や場所等鳥獣保護法で定められている範囲内においてスリングショットでの狩猟鳥獣の捕獲が可能ということです。鳥獣保護法は野生鳥獣を傷つける行為も禁止しているため、狩猟鳥獣ではないサルに対してスチール球を使用することは鳥獣保護法違反となる可能性があります。しかしながら、地区によっては行政がサルの追い払いにロケット花火やスリングショットを使用して追い払いを推奨している場所もあるため、どこまでが合法であるか曖昧な点があるのも事実です。鳥獣の駆除、追い払いに関してさらに詳しくは自由猟法のページと鳥獣保護法のページをご確認ください。
青少年育成条例
本サイトの閲覧者は基本的に私も含めおじさん世代なので基本的には関係ありませんが、青少年育成条例とは各都道府県が制定している、青少年を保護、育成するための条例で、青少年とは18歳未満の者を指します。この条例ではスリングショットを有害玩具としてして指定している県もあり、自分の子供に貸与、買い与える時は注意が必要です。
スリングショットの規制状況
2022年からクロスボウの所持が登録制に切り替わりました。背景としてボウガンを使用した殺人事件の発生が多かったためで、スポーツとしてのボウガンの使用実態等を考慮し購入には免許登録が必要となりました。その際にスリングショット、スリングライフルも規制に加えてはどうかと議論されましたが、スリングショット、スリングライフル共に人身への危害を加える目的で使用された実体がなかったため規制対象から外れました。警察庁での議事録はこちら。
しかしながら、今まで人に危害を加える目的で使用されていなかったため規制にならなかったというだけで、これから何か事件に使われるようなことがあれば規制対象となることは明白です。一方で、スリングショット、スリングライフルは貫通力のある弾を発射できないため殺人を行う事は不可能に近く、仮に出来たとしても、至近距離で肌の露出している人体の急所を撃たなければならないため、ナイフやバールなどの他の凶器を使用したほうが遥かに効率と確実性が高いでしょう。また、スリングショット、スリングライフル共に連射性が優れてはいないので、人に危害を加える目的で使用すると逆に相手を逆上させ反撃にあう可能性が高いのも人に対して使用されていない背景としてあります。
スリングショット、スリングライフル共に人への被害が無いというだけで器物損壊、威力業務妨害の件数は平成22年~令和2年までにスリングショット17件、スリングライフル1件と少なからず発生しており、そういった使用はスリングショット愛好家、スリングショットで害獣の追い払いを行っている方たちにとって非常に迷惑なので絶対に止めていただきたいというのが筆者の考えです。また、そういった事件があると警察から各スリングショット通販サイト、販売店に購入者リストの提示を求めらます。当店を含め販売店は警察からの要請に基本的に応えるため、犯人は容易に見つかることとなります。
スリングショット使用時の法的リスクと回避策
前述までスリングショットに関して法律、規制について説明しましたが、スリングショット、スリングライフルを合法的に使用するにはどのようなことに注意を払えばよいのでしょうか?ここから安全対策ともし法を犯してしまった場合の罰則について見て行きましょう。
器物損壊
器物損壊とは他人物をわざと傷つけたり壊したりした時に成立する犯罪で、スリングショット、スリングライフル使用時に一番犯してしまう可能性の高い犯罪です。一番多いパターンとして斜め撃ちをした時の弾が車や家に当たるパターンで、自身でも気づかないうちに人のものを壊してしまっている場合です。斜め撃ちをした場合スリングショットファルコンやバーネットダイヤブロのような弱いスリングショットで150メートル、スリングライフルでは300メートル近く玉を飛ばす能力が有り、使用時にバックストップがないまま撃つと思わぬ結果になってしまうことがあります。スリングライフル、スリングショットを使用し木の上の鳥を狙うときは、標的に当てることを第一に考えるのではなく向こう300メートルに民家や道路がないか確認を行ってから使用するようにしましょう。
器物損壊の罰則
器物損壊を犯してしまった場合の罰則は3年以下の懲役か30万以下の罰金です。実際には執行猶予が付くため刑務所に収監されるということは稀のようですが、前科がつくという点で後の社会生活に影響を与えることは間違いありません。また、破壊や傷を付けてしまった物によりますが刑事罰だけでなく民事で損害賠償請求され弁償をさせられることは間違いありません。したがって、自身の不注意でこの罪を犯してしまった場合、社会的、金銭的な負担が大きく貴方にのしかかることとなります。ですので、スリングショット、スリングライフルを使用する場合は必ず周囲の安全確認、バックストップの有無を確認してから弾を撃つようにしましょう。
鳥獣保護法違反
二つ目に犯してしまう確率が高いのが鳥獣保護法違反です。なぜかというと、狩猟鳥獣の判別、特にカモ類の判別は難しく、エクリプス前のカモは非常に判別が難しくベテランの猟師でも間違うことがあるほどです。双眼鏡やスコープでよく観察しどのカモか自信をもって判別できるようになるまでは撃たないほうがよいでしょう。また、狩猟が可能な場所というのも非常に限られている上に毎年変わるため、都市部に住んでいる人は猟場を探すのに一苦労すると思います。さらに、狩猟が可能な場所は神社仏閣の敷地内以外で都市計画上の公園でもなく、農道を含む道路以外の場所で行わなければならないというように、細かな禁止事項が存在するので狩猟読本をしっかり読み込まなければ容易に鳥獣保護法を犯してしまうことになります。
鳥獣保護法の罰則
鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律である通称鳥獣保護法を違反した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を科されることになります。狩猟をやる以上この法律を順守することは必須なので、狩猟免許を取得する以上に狩猟読本を読み込まなければなりません。(筆者もスリングショットを使用しての狩猟から始めましたが、1年後の狩猟免許取得時は何の勉強をせずとも筆記試験がパスに出来るほど狩猟読本を読み込んでいました。)
スリングショットで自由猟を行うための保険はあるのか?
前述まででスリングショットの法的なリスクについて説明しましたが、特に問題となるのが器物破損や人に当ててしまった場合の損害賠償ではないでしょうか。狩猟免許を持っている場合、ハンター保険というものに加入して(狩猟者登録を行うには必ず入らなければならない)、損害賠償請求された場合のリスクを減らすのですがスリングショットを用いて狩猟を行う場合、狩猟者登録も免許も必要ないため加入は必須ではありません。というよりも、ハンター保険自体に加入することはできません。それでは他に損害賠償請求のリスクを減らすことのできる保険があるのかという問題ですが、個人賠償責任保険が現存する保険の中で一番近い物となります。スリングショットで狩猟を行っているときに他人の資産を傷つけてしまった場合この保険が適用されるかどうかは保険会社の約款によるので、保険をかけておきたいという方は保険会社にお問い合わせください。
まとめ
スリングショット、スリングライフルは銃刀法上で違法性がない物であることは冒頭で説明しました。さらに、スリングショットを使う上で銃刀法以外にも考慮しなければならない法律として軽犯罪法や迷惑防止条例が有り、その上鳥獣を駆除するのであれば鳥獣保護法の理解を完璧にしていなければならない事を説明しました。最後に、スリングショットを使った遊びは非常にニッチな遊びであるため、何か問題が起こればすぐに規制の方向に傾きかねません。あなたの行動がスリングショット愛好家全体に影響を与える事を改めて強調しておきたいと共に、この記事がスリングショット愛好家を増やすきっかけになれば幸いです。